東京高等裁判所 昭和28年(ネ)2496号 判決
宇都宮地方裁判所足利支部昭和二十六年(ヨ)第一〇号有体動産仮差押申請事件につき、同庁が、同年四月十六日なした仮差押決定は、これを認可する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び疎明の提出、認否、採用は、次に記載するものの外、いずれも原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
控訴代理人の主張
本件仮差押命令申請書記載の当事者の表示中債務者代表者代表社員宮田義男とあるのを代表者清算人杉本粂太郎と訂正する。本件仮差押決定当時債務者(被控訴会社)の代表社員宮田義男が死亡していたとしても仮差押決定の効力を左右するものではなく、右代表社員の死亡による退社は登記事項であるにも拘わらず被控訴会社はこの登記を怠つたものであるから、右退社は善意の第三者である控訴人に対抗することができないものであるのみならず、自ら登記義務を懈怠しながら、右懈怠から生じた仮差押決定の代表者の表示の誤りを指摘して異議の申立をすることは、明らかに権利の濫用である。
被控訴人の主張
本件仮差押決定は昭和二十六年四月十八日被控訴会社代表者宮田義男を名宛人として被控訴会社に送達されたものであつて右送達は本来無効であるが、右送達に対しては責問権を抛棄する。
三、理 由
まず本件仮差押の申請の適否について按ずるに、仮差押の申請の要件は民事訴訟法第七百四十条の定めるところであるが、保全手続の申請は判決手続の訴に該当するものであるので、右申請の形式については訴の方式に関する同法第二百二十三条第二百二十四条の準用があるものと解するを相当とする。従つて申請書には当事者法定代理人を記載すべきであつて、これが記載をかく申請書は不適法であり、右欠缺の補正のない限り右申請書による申請は不適法であつて却下を免れないものというべきである。
しかるに記録編綴の有体動産仮差押命令申請書によれば、債務者たる被控訴会社の代表者として代表社員宮田義男と記載してあるところ、成立に争のない乙第一号証、同第三号証によれば、同人は、右申請前昭和二十一年六月二十一日既に死亡している事実が明らかであるので、本件申請は結局申請書に適法な被控訴会社の代表者の記載をかいているものとなすのほかなく無効であるといわなければならない。
この点につき、控訴人は、宮田が当時既に死亡していたとしても、死亡による退社の登記がないから善意の第三者である控訴人に対抗できないものである、と主張するのであるが、合名会社における社員の死亡による退社は、死亡という事実の性質からみて絶対的なものであつて直ちに効力を生じ、登記の有無に拘わらず、何人に対してもこれを対抗しうるものと解するを相当とするを以て控訴人の右主張は理由がない。しかしながら、控訴人は、当審において右申請書の債務者の代表者の記載を「清算人杉本粂太郎」と訂正し、杉本粂太郎が債務者である被控訴会社の清算人として適法に同会社を代表しうる権限をもつていることは記録編綴の被控訴会社の登記簿抄本により明らかであり、かつ申請書において債務者の代表者を表示するにつき誤りあるときは、債権者は後に至り適法に訂正することは何ら妨げあるところではないので、前示申請書の欠缺は右訂正により適法に補正せられたものというべく、その形式において他にかくるところもないので、右申請書による本件申請は右補正とともに適法になつたというべきである。よつて進んで本件仮差押の申請の当否について審究するに、原本の存在に争がなく且つその記載の整然として明瞭であることによつて真正に成立したものと認められる甲第一、二号証及び成立に争のない同第五号証によれば、控訴人は、被控訴人に対し、昭和二十四年十一月から昭和二十五年三月までの間、各種の紙袋を売り渡し、同年五月現在において金九万四千円の売掛代金及びこれに対する同年五月十六日から昭和二十六年三月三十一日まで年六分の損害金債権を有することが認められ、又当裁判所が真正に成立したと認める甲第三号証の一、二によれば控訴人主張の仮差押の必要性のあることが窺えるので、原審が本件につき昭和二十六年四月十六日なした仮差押決定は相当であつて認可すべきものといわなければならない。尤も右決定が本件申請書の当初の誤りを襲踏し債務者(被控訴会社)の代表者として代表社員宮田義男と記載し、かつ同人を名宛人として右決定正本の送達をなしたことは不当であつて右送達は本来無効であり、従つて右決定はその効力を生ずるに由なかつたのであるが、右代表者の誤謬は当審において適法に補正せられ送達の不適法は被控訴人において責問権を放棄したのであるから、いずれも右決定の効力に影響を及ぼさないものというべきである。従つて右決定を取り消し、本件仮差押の申請を却下した原判決は不当であるから、これを取り消し、原決定を認可すべく、よつて、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大江保直 岡咲恕一 猪保幸一)